いまだに引きずる「家督相続」 世代間の溝は埋まるか – 日本経済新聞

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「内藤先生、聞いてくださいよ。頑固なうちの父の話を」
「今度は何が起きましたか?」
「それが、兄が家を継ぐのだから全財産を兄に渡すって言い出してるんですよ」
「継ぐと言ってもお宅は事業をされていませんよね?」
「ハア、主にお墓のことだと思います」
「お父様はおいくつですか?」
「88歳です」
「というと昭和5年生まれ。家督相続で育てられた世代ですね」
「なんですか? その家督相続というのは……」

■家督相続はまだ終わっていない?

 1898年(明治31年)に制定された旧民法では、「家督相続」が前提でした。家督相続では原則として長男が単独相続することになり、配偶者や他の親族には相続権はありませんでした。今の感覚から言えば信じられない仕組みですが、これは戸主が家を守るという江戸時代からのしきたりが法律化されたものだといわれています。また当時の相続は死亡だけが原因ではなく、「隠居」により戸主を引退し、一切の権利義務を長男へ相続させるという方法もありました。「ご隠居」といえばTVドラマの『水戸黄門』が有名ですが、仕事を辞めたという意味だけでなく、旧民法の下では生前相続により引退した人をさす言葉だったのです。

 この家督相続制度は1947年(昭和22年)の民法改正で廃止され、法定相続制度が導入されました。これにより配偶者や長男以外の子供にも相続権が与えられ、年齢や男女を問わず均等に財産を分ける「諸子均分相続」が始まりました。当初は配偶者が3分の1、子供たちが3分の2でしたが、81年(昭和56年)の改正により配偶者が2分の1、子供たちが2分の1となり現在に至っています。

 最近、相続登記をしていないため名義が亡くなった人のままという不動産が急増し、問題となっていますが、1947年以前に開始した相続での不動産を登記する場合は、現在でも家督相続に基づいて登記する場合があります。そう考えればある意味、家督相続制度は完全には終わっていないのかもしれません。

■税法は有無を言わさず遺産相続課税へ

 相続税は「富の再分配」の効果があるとされています。財産の多い人から多く税金を集め、財産の少ない人からは税金を取らないことにより、富が再分配されるという考え方です(これは超過累進税率を採用している所得税にもいえるのかもしれません)。

 相続税の導入当初は、家系や地位の一切を承継するためその義務が過大である家督相続に対しては税率が低く設定され、単なる財産取得である遺産相続は税率が高く設定されていました。47年の民法改正により家督相続課税は廃止され、遺産相続課税と贈与課税の2本立てとなり現在に至っています。

 相続税と贈与税は2本立てですが、贈与税は相続税法で規定されており、贈与税法という税法は存在しません。そもそも生前贈与を繰り返すことにより相続財産を減らして租税回避できることから贈与税が設けられているのであって、「贈与税は相続税の補完税」ともいわれています。

■親は家督相続を、子は法定相続を主張する

 家督相続が改正されてから71年もたっている現在でも家督相続を引きずっているケースを見かけるのは、冒頭のケースのようにご自身が家督相続を経験した世代がまだまだ多いからです。私自身もよく親から「お兄ちゃんが会社を継ぐのだから、お前には何も残してあげられない。ゼロから頑張りなさい」と言われて育ったのを覚えています(それが税理士資格を取得するきっかけになりました)。

 一方では今の時代、子供のころから自由な生き方が許されるがあまり「親の面倒も見ないし、先祖のお墓も放置する子孫」が多くなり、親世代が安心してあの世にいけなくなっているのも事実です。家督相続は平等とはいえませんが、本人が生きている間に後継者を決め、財産を分けて引退するのは勇気のいることですから、これが相続にまつわるもめごとを防止していたのかもしれません。

 そしてこの家督相続世代と法定相続世代の「溝」を埋めるのは、生前のお互いのコミュニケーションしかありません。遺言を開けてビックリということがないよう、日ごろの心がけが大切なのです。



内藤克

 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。



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