「相続手続きが楽に」は本当? 法務局の親族図証明 – 日本経済新聞

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「先生、これからは相続時に戸籍や住民票を取り寄せる必要がなくなるんですか?」
「ええ?」
「なんでも法務局で親族図のようなものを作ってくれて、それを銀行などに提出すれば名義変更ができるって聞いたんですけど……」
「ああ、法定相続情報証明制度のことですね? 残念ながら法務局が作成してくれるのではなくて、こちらが作成したものを証明してくれる制度ですよ」
「そうなんですか? じゃあ今までと同じく全部自分で取り寄せる必要がある、と」
「そうですね。戸籍を取り寄せて親族図を作成し、それが正しければ証明書の形にしてくれるのです」
「なんだぁ」
「でもこれで便利になる部分も確かにありますよ」

 今年の5月29日から「法定相続情報証明制度」が始まりました。開始後間もないためネット上にも解説記事が少なく、過大な期待や誤解が先行しているようです。

 これは法務局が証明してくれる親族図の交付制度のことで、この制度の導入により銀行口座の名義書き換えなどの手間が大幅に省略できると期待されています。以前は相続手続きの都度、戸籍謄本や除籍謄本などの分厚い束を何度も金融機関などの窓口に出さなければならなかったのですが、今は大げさにいえばそこが「紙一枚」で済むようになったのです。

 政府は昨年6月の閣議決定(相続登記の促進のための制度の導入)を受けて、本格的に相続登記の促進に動き出したといえます。逆にいえば相続登記の手続きがいかに面倒かという話で、まず親族図を作ったりして誰が相続人になるかを特定し、被相続人が生まれてから亡くなるまでに住んでいた「全ての市区町村」で戸籍謄本や除籍謄本、住民票を集めて回らなければなりません。

 私自身、今までに何度も相続登記のされていない土地の譲渡の相談を受けました。相続争いになるくらい人気の不動産ならそんなことはないのでしょうが、誰も欲しがらず登記の手間が面倒くさいだけ、という不動産がほとんどでした。相談者の方に、長らく連絡を取っておらず「あんな土地いらないよ」と嫌がる親族からわざわざ印鑑証明やら住民票の写しやらの書類を取り寄せてもらい、大変な思いをした記憶があります。

■金融機関も「職人技不要」に

 この制度は相続人(もしくはその代理人である司法書士や税理士)が相続関係の戸籍をもとに親族図を作成し、それを法務局に申請して、内容が正しければ偽造防止措置が施された専用の紙に印刷して交付される、というものです。冒頭のケースのように、申請すれば親族図そのものを作成・交付してくれると勘違いしている人も多いのですが、そうではありません。そのためこの手続きは弁護士、司法書士、税理士などの専門家に依頼することになると思います。一般の方が戸籍をもとに一から親族図を作成するのは極めて難しいからです。

 他人の戸籍を取り寄せてみたことがある方ならわかると思いますが、誰と誰がどうつながっているのかは第三者には非常に分かりにくくなっています。自分の家族など、もともと親族関係が頭に入っている状態で戸籍を見るのとはわけが違います。今後は相続手続きといえば戸籍一式と、この認証された「法定相続情報証明」を何通か司法書士に取り寄せてもらうことになるでしょう。

 このため一説によると、金融機関側が「戸籍謄本を読みこなして相続人を特定するという“職人技”を持った職員を置かなくてもよくなる」というメリットが一番大きいともいわれています。

■この機会に戸籍を取ってみよう

 前述のように相続登記や相続税の申告時には、被相続人の戸籍を生まれたときに遡って連続して取り寄せなければならないため、本籍を転々としている場合などは税理士が相談者の方に「取り寄せ方」を説明するのも一苦労でした。まず現在の本籍地の戸籍を取り寄せ、本籍がどこかから移転している場合にはその市区町村へ行って取り寄せる。この単純作業の繰り返しなのですが、その人の人生の数十年分ともなると相当な負荷です(実際には郵送による取り寄せも可能です)。

 さて、自分自身の戸籍を取り寄せることは誰でも簡単にできますが、自分の配偶者、子供(直系卑属)、親(直系尊属)はどうでしょう。答えをいえば、これらの人の戸籍は委任状なしに取り寄せることができます。ですから相続が発生した際に戸惑わないように、また予期せぬ相続人がいたりして慌てることのないように、この機会に親の戸籍を一度取り寄せてみるのもいいでしょう。それもまた相続対策の第一歩です。

内藤克

 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。

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