80歳も大活躍の陸上クラブ スポーツで地域に活力 アスリートネットワークの朝原宣治副理事長に聞く(4) – 日本経済新聞

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アスリートネットワーク副理事長の朝原宣治氏

 2020年東京五輪・パラリンピック後の時代「post2020」にスポーツは社会に何をもたらしているのか。その答えを探る手掛かりは、08年北京五輪の銅メダリスト、朝原宣治氏(アスリートネットワーク副理事長)が主宰する陸上クラブにあった。このクラブでは80歳のメンバーも練習に参加し、地元の陸上大会で活躍する。朝原氏にスポーツを通じた地域活性化の実践論を聞いた。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)

 ――2008年に現役を引退した後、どのようにセカンドキャリアを築いていったのでしょうか。

 「もともと私は大阪ガスの人事部にいました。人事部では、私が現役引退後、アスリートからビジネスマンにソフトランディングできるように配慮してくれました。いわゆる一般的な仕事をする方向にキャリアを用意してくれている感じでした」

 ――芸能界やメディアからいろいろな仕事のオファーを受けたのではないですか。

 「確かに引退した後、タレントにならないかといった話もきましたし、企業広告への出演依頼もありました。もしかしたら、タレントとしてもうけることもできたのかもしれませんね(笑)。でも、私がやりたかったことの一つはスポーツクラブをつくることでした。クラブの中で、いろいろな人に走ることの面白さや素晴らしさを伝えたかったし、トップ選手の指導もしてみたいと思っていました。それで自分のやりたいことをやろうと、クラブをつくることに挑戦しました。これはドイツ留学時代からの夢でした」

 ――クラブの創設に向けて、どんなことをしたのですか。

 「現役のときから自分がやりたいことを周囲に発信して、その思いを理解してくれる人を増やし、やりたいことをやれる土壌を作っていました。そういった社内の人たちが私の意向をくみ取って、クラブを創設できるように動いてくれました。その結果、新たに『地域活力創造チーム』を創設していただき、そのチームの活動の一環として陸上クラブ『NOBY T&F CLUB』が始まりました」

 ――大阪ガスの「地域活力創造チーム」とは、どういう組織ですか。

 「地域と企業のプレゼンスを高めるために、都市計画や開発プロジェクトの初期段階から様々な形で携わることを目標に活動するチームです。このチームの中で私は世界のトップアスリートと戦ってきた経験を次世代に伝えながら『まちづくり』に貢献する活動をしています」

 ――「まちづくり」という意味では、朝原さんが主宰する「NOBY」はトップ選手の育成だけでなく、クラブの地元である兵庫県西宮市を中心とした地域に住む幅広い年代の人たちを指導していますね。

 「小学生からシニアの方まで指導させていただいています。クラブでは体を鍛える、陸上の競技記録を高めるということも大切なのですが、そういった活動を通じてクラブが地域のコミュニティーとしての機能を果たすことや人格形成の場を提供することも重要だと思っています」

朝原氏は走ることの面白さや素晴らしさを伝える活動を続ける(写真提供=アスリートネットワーク)

 ――高齢者の健康増進は今後の日本社会の大きなテーマです。地域に根ざしたクラブの活動が地域住民の健康増進に寄与することも期待されていると思います。

 「うちのクラブには80歳の方がいらっしゃいます。その方は79歳でクラブに入り、熱心に練習して、80歳になってシニアの陸上大会で兵庫県1位になりました。そういう報告を受けるのは本当にうれしいですね。最近も69歳の方から電話がかかってきました。来年、70歳になるので私のクラブに入って勝負したいと話していました」

 ――クラブの活動を通じて、地域の人たちが生きがいや夢を見いだしている姿からは、地域に活力をもたらすスポーツの力を感じますね。

 「本当にそう思います。そういった活動は自分にとっても大きなやりがいを感じますし、さらに今後も発展させていきたいと思っています」

 ――老年学の専門家によると、老化は心・身体・社会の3つの要素が影響し合って進んでいくそうです。例えば、高齢者は足腰が弱ると外出の機会が減って社会との接点が少なくなり、それが原因で心も弱くなっていきます。高齢者が地域社会とつながる場を提供できるスポーツクラブは高齢者の心と身体の健康増進に寄与し、地域を元気する要になる可能性がありますね。

朝原氏は自然に体を動かす環境に身を置く必要性を説く

 「これまでクラブを主宰してきた自分の経験を通じて、クラブの活動は地域活性化のための効果的な手段だと実感しています。そういった活動を企業が支えることで地域の方々と企業が強い接点を持つことも大事だと感じています」

 ――企業経営の視点からも今は人と人との直接的なつながりを重視するビジネスモデルが見直されているように感じます。地域の中で人と人がつながるプラットフォームの機能を担うことは、企業にとってもビジネスを展開するうえでの財産になっていくと思います。

 「今後、各地でスポーツクラブの活動が活発になれば、指導員の仕事も増えますから、スポーツの市場拡大、そしてアスリートのセカンドキャリア創出にもつながるという意味でもありがたいですね」

 ――朝原さんはスポーツ庁長官の諮問機関であるスポーツ審議会の「スポーツ基本計画部会」委員として、17年度からの第2期スポーツ基本計画の審議に参加しましたね。計画に盛り込まれたスポーツ参画人口の拡大やスポーツを通じた経済や地域の活性化などの施策について、どう見ていますか。

 「私がスポーツ基本計画部会でお伝えしたのは、スポーツの促進を図るうえで、まず子供から高齢者まで体を動かすことになじむ文化をつくることが大事だということです。そのためには一緒に体を動かす友達や仲間をつくったり、クラブやチームに所属したりすることで、自然に体を動かす環境に身を置くことが大切です。特に子供のときに体を動かす習慣を持たないと、大人になってから仕事の合間を縫ってスポーツをすることは、どうしてもハードルが高くなると思います。本格的なスポーツという形にこだわらなくとも、ちょっとした運動や散歩などによって生活の中に自然と体を動かす習慣を根付かせることがまずは必要だと思っています」

 ――第2期スポーツ基本計画には、国内のスポーツ市場規模を20年までに約2倍の10兆円、25年までに15兆円にする目標が盛り込まれ、「スタジアム・アリーナ改革を通じたまちづくりや地域スポーツ振興」が目玉施策になっています。安倍晋三首相も「スタジアムを25年までに20カ所整備する」と発言していますが、箱モノの議論だけでなく、スポーツに親しむ文化や習慣を根付かせる視点も不可欠だと思います。

 「箱モノも大事ですし、スポーツに親しむ文化や習慣も大事です。その両輪が回ってはじめてスポーツ市場の拡大が現実味を帯びてくると思います」

 ――朝原さんは「post2020」を見据え、今後、どのような方向で活動を展開していくのですか。

 「まずはうちのクラブの活動を着実に広げて、より多くの地域に根付いていけるようにすることでしょうね」

朝原氏(右)と対談した藤田氏

 ――京都市の健康大使を務めたり、滋賀県草津市とも健康増進に関する取り組みで接点を持っていたりしますね。今後も地方自治体との関わりは重要になりそうです。

 「そうですね。今、健康をテーマにした取り組みをしている地方自治体は増えていますし、我々に対する協力依頼も増えてきています。そういったことからも運動や健康に対する意識が世間的にも高まっている感じを受けます。さらに3年後には東京五輪・パラリンピックも開催されますから、その意識は更に高まるでしょう。その中で地方自治体や様々な関連団体と連携しながらNOBYのクラブ活動やアスリートネットワークの活動を広げていきたいと思っています。こうした展開をする中で、地域の活性化やスポーツ市場の拡大、そして、引退後のアスリートが輝ける場を増やしていくことを実現していきたいですね」

(この項おわり)

朝原宣治(あさはら・のぶはる)さん
 1972年生まれ。高校時代に陸上競技を始め、同志社大を経て大阪ガス入社。96年アトランタ五輪など五輪、世界選手権の男子100メートルで5度準決勝進出。北京五輪男子400メートルリレーで銅メダル獲得。2008年に引退。10年にバレーボール全日本女子監督だった柳本晶一氏とアスリートのキャリア形成を支援する団体「アスリートネットワーク」を設立、副理事長に就任。陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を主宰し、小学生から中高生、そして高齢者まで幅広く指導を行う。

藤田耕司(ふじた・こうじ)
 1978年生まれ。公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学を体系化し、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

 前回掲載「地域スポーツクラブ 朝原流の原点はドイツ留学で体得」では、ドイツで地域に密着したスポーツクラブについて知った経験から何を得たのかについて聞きました。

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