「共謀罪」ある弁護士の懸念 父親が治安維持法で逮捕 – 朝日新聞

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 「新たな言論弾圧の道具になりはしないか――」。政府が「共謀罪」の趣旨を盛り込み、6日に国会での審議入りが見込まれる組織的犯罪処罰法改正案に、愛知県岡崎市の弁護士天野茂樹さん(71)は警鐘を鳴らす。弁護士だった父は戦前・戦中に言論弾圧に使われた治安維持法の被害者。歴史の教訓から法案に不信の目を向ける。

 父の名は天野末治(1901~76)。小作料減免を求める農民を弁護し、30年には三信鉄道(現・JR飯田線)工事で働いた朝鮮人労働者が賃金不払いを理由に起こしたストを支援。弱者の側に立つ弁護士だった。

 治安維持法違反容疑で逮捕されたのは33年。同法違反容疑で共産党員が大量検挙された「3・15事件」(28年)などで被告の弁護人を務めた「日本労農弁護士団」の約25人が一斉検挙されたとき(日本労農弁護士団事件)だ。末治さんもその一人。「焼けた火箸を突きつけられて『言う通りに話せ』と脅されたよ」。当時の話を茂樹さんにそう語ったという。

 「国体」(天皇を中心とした国のあり方)の変革や私有財産制度の否定を目的とする結社を禁じた治安維持法。「3・15事件」を機にした改正で、懲役10年だった最高刑は死刑に引き上げられ、「目的遂行罪」が導入された。

 目的遂行罪とは、ある行為が結社の目的遂行のためになっていると当局が見なせば、本人の意図に関わらず罪にできるものだ。治安維持法に詳しい森正・名古屋市立大名誉教授(憲法)は「日本労農弁護士団事件では、被告人との接見や法廷外の救援活動に加え、法廷での弁護活動までも『共産党の目的遂行のためにする行為』とされた」と指摘。「弾圧を恐れる弁護士を萎縮させ、言論統制を司法の場にまで浸透させる効果をもたらした」と話す。

 末治さんは執行猶予付きの判決を受け、弁護士資格を剝奪(はくだつ)された。39年に復帰したが、もはや、まともな弁護活動は不可能だった。41年の法改正で、治安維持法事件の担当弁護人は国が指定した弁護士からしか選べなくなった。

 6日に審議入りする法案は、処罰対象をテロ集団に限ってはいない。政府は「一般市民は対象にならない」と説明しているが、法務省は「正当に活動する団体が犯罪を行う団体に一変したと認められる場合、処罰対象になる」との見解も示している。

 治安維持法や特高警察について研究している荻野富士夫・小樽商科大特任教授(日本近現代史)は「組織的犯罪集団の認定や正当団体の犯罪集団への移行は、いずれも警察側が判断し、拡大解釈の危険性が大いに残る。恣意(しい)的な運用ができた『目的遂行罪』を武器に、特高警察が治安維持法の適用を際限なく広げていった過去を想起すべきだ」と指摘する。

 茂樹さんも思う。「戦前の政府は『無辜(むこ)の民は対象にしない』と説明していたのに、取り締まりは社会運動や宗教団体にまで広がり、正当な裁判も受けられなくなった。国民が反対しにくい『テロ対策』を口実とした法律が、政府に批判的な市民団体などに適用されていかないか、心配だ」

 父の影響を受け、自らも弁護士の道を選んだ茂樹さん。父は「あんな暗い時代を、二度と繰り返してはいけない」と語っていた。茂樹さんは今、その言葉の重みをかみ締めている。(黄澈)

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