退去時の敷金 通常使用なら「全額返還」が原則 – 日本経済新聞

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クロスは貼り替え費用は家主も負担する

 賃貸住宅の退去時の敷金返還を巡るトラブルは少なくない。普通に暮らすうえで避けられないキズや汚れまで、入居者負担で修繕しようとする家主や不動産業者がいるからだ。敷金返還の原則を知っていれば、余分な費用負担を避けられるだろう。

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 賃貸住宅の敷金や原状回復をめぐるトラブルは国民生活センターに寄せられるものだけで年間1万件を超える。その内容について、敷金トラブルに詳しい行政書士の永井恒司氏は「高額なクロス(壁紙)の貼り替え費用などを請求する不動産業者や家主が少なくありません」と話す。

 本来、クロスに限らず通常の使用によるキズや汚れなどの修繕費用は月々の家賃に含まれているため、敷金から引かれることはない。ところが、この原則を知らなかったばかりに泣き寝入りしてしまう入居者がいるというのだ。

図A

 では、どのようなキズや汚れなら通常使用とされるのか。国土交通省が公表しているガイドラインを見てみよう。

 例えば壁に画びょうで貼っていたポスターをはがすと、日焼け跡や画びょうの穴が残る。これは通常使用の範囲内。冷蔵庫の後ろの壁が黒ずむ「電気焼け」も同じ。いずれも修繕費用は家主負担だ。一方、手入れをせずに放置した台所の油汚れ、子どもの落書きなどは入居者負担になる。

 ただし、入居者に落ち度がある汚れも、貼り替え費用の一部は家主が負担しなければならない。内装は通常の使用と日差しなどによる経年劣化で年々価値が下がっていく。いわゆる減価償却だ。ガイドラインによると、クロスやカーペットなどは貼り替えてから6年で価値がほぼゼロになる(図のaの線)。この分は入居者には責任がない。

 入居者が負担するのは過失によって余計に価値を下げた場合だ(同bの線)。つまり、aとbの差額のみ負担すればいい。永井氏は「クロスの貼り替え費用を100%入居者負担にして敷金から差し引くのは、裁判所の判例やガイドラインなどのルールに反します」と強調する。

 専門業者によるハウスクリーニング代は家主負担が原則だが、賃貸借契約書の中には特約として数万円の入居者負担を定めているものがある。東京都の条例では不動産業者に対し、費用負担について入居者に説明することを義務付けており、ハウスクリーニング代などを入居者負担にするなら、契約時に書面に記載する必要がある。

簡易裁判所の「少額訴訟」で家主に返還を求めることができる

 ほかにも注意点がある。不動産コンサルタントの長谷川高氏は「入居時からあるキズや汚れなどは、トラブルにならないよう写真撮影して不動産業者に指摘しておきましょう」と助言する。入居時に貼り替えなかったクロスなどはすでに減価償却が進んでおり、その分、入居者負担は少ないはず。いつ貼り替えたものなのか、退去時に不動産業者に説明を求めればいい。

 こうした敷金返還ルールはインターネットなどで入居者にも広く知られつつあるし、大手の不動産業者もおおむねルール通りに敷金を返還している。ただ、ルールの周知が十分でない地方都市の家主や中小の不動産業者などには古い商習慣が残っていることがある。「敷金から高額な原状回復費用を差し引いたり、追加の費用を請求したりすることが少なくない」(永井氏)

 ルールに基づいて不動産業者に掛け合っても十分な敷金が返還されなければ、簡易裁判所の「少額訴訟」で家主に返還を求めることができる。簡裁には敷金返還のための訴状のひな型があり、手続きは自分で簡単にできる。「少額訴訟をします」と不動産業者に伝えるだけで敷金が返ってくることもある。

 不動産業者は物件管理や入居者募集で継続して家主から報酬を得ているため、敷金の精算について「家主側の負担を減らそうとする面がある」と長谷川氏は指摘する。敷金から過大な修繕費用が差し引かれていないか、明細書によく目を通したい。

(表悟志)

[日経プラスワン2017年3月25日付]

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