地域スポーツクラブ 朝原流の原点はドイツ留学で体得 – 日本経済新聞

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アスリートネットワークの朝原宣治副理事長

 2020年の東京五輪・パラリンピックで活躍するトップアスリートたちも、その後の時代「post2020」には第二の人生を歩み始めることになる。ただ、日本ではアスリートのセカンドキャリアを支える基盤となるスポーツの市場が未成熟。アスリートネットワークの朝原宣治副理事長は地域のスポーツクラブを活性化し、引退したアスリートが地域の若者らを指導する仕組みを考える。その発想の原点はドイツ留学時代の経験だった。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)

 ――現役時代に自分自身の引退後のセカンドキャリアについて、どう考えていましたか。

 「34歳で現役続行を決めたとき、トレーニングと並行し、同志社大学大学院に通ってスポーツ振興について学んでいました。そういった学びが将来への不安に対する備えにもなり、より競技に集中できるようにもなりました」

 ――現役時代からセカンドキャリアについて具体的に準備していたのですね。

 「競技の成績に対する不安は、そのまま将来のキャリアに対する不安に直結します。競技で好成績を出すことができれば、将来のキャリアも開けていきますが、思うような成績が出せないと、競技に対する不安と将来のキャリアに対する不安の両方が押し寄せてきます。そんな不安に立ち向かうためにも将来のキャリアにつながる学びを進めることは効果がありました」

 ――セカンドキャリアについて心配しなくてもよい仕組みを用意できれば、日本のアスリートはもっと競技に集中できるようになり、好成績につながる可能性がありますね。

 「確かに、アスリートのセカンドキャリアが充実している国はアスリートが競技に専念できて、有利かもしれませんね」

朝原氏はドイツでの経験などを踏まえ、現役引退後、自ら主宰する陸上クラブで地域のスポーツ振興を実践する(写真提供=大阪ガス)

 ――朝原さんは1995年から3年間、ドイツに留学していましたね。アスリートのセカンドキャリアの状況はドイツと日本では違いがあるのですか。

 「ドイツでは地域にクラブハウスがあり、そこにお年寄りも若者も集まって地元に根付いた形でスポーツを楽しむ文化があります。この点がドイツと日本で大きく違うと感じました。ドイツに行って、まずやらされたのはスポーツクラブのクラブ員になること。地元での試合には、そのクラブのユニホームを着て出ていました。クラブを練習拠点にして、ドイツ人コーチの指導を受けながら、ドイツの総合型地域スポーツクラブについて多くのことを学びました。ドイツでは、クラブのコーチという職業がアスリートのセカンドキャリアとして存在しているのです」

 ――ドイツでは日本以上に地域のスポーツクラブの存在感が大きいのですね。

 「かなり歴史があるスポーツクラブもあります。お年寄りはクラブハウスでビールを飲みながら、若者がスポーツをするのを見て、楽しんでいます。礼拝のために教会に地元の人が集まるように、自然にクラブハウスにも地元の人が集まっています。これと同じような機能を果たしているコミュニティーは日本ではあまり思い浮かばないですね。ドイツでは、みんな小さい頃から学校が終わったら地域のスポーツクラブの施設やクラブハウスに集まってきて、そこでスポーツをやっているんです。日本における学校の部活動のようなものは基本的にありませんからね」

 ――日本では、子供のスポーツは学校の部活動が中心です。ただ、競技の経験がない学校の先生が部活動の指導をするケースもあり、先生の負担も大きいようです。地域のスポーツクラブで競技経験が豊富なコーチが子供を指導するドイツと比べると、日本は改善の余地がありそうです。

朝原氏はスポーツクラブのマネジャーを担う人材も必要だと指摘する

 「経験豊富な人がスポーツの指導を担当する、学校の先生の負荷を軽減するという2つの意味で、現役を退いたアスリートが地域のスポーツクラブのコーチとして若者を指導するのは良いことだと思います。日本でも体操や水泳、野球の少年団などは地域のクラブで教えるケースも多くなっています。すぐにドイツ流にするのは無理でも、学校の部活動の一部を地域のクラブで預かるようなハイブリッド型を徐々に進めてみるのは、ありだと思います」

 ――朝原さんは陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を主宰し、子供たちも指導していますね。学校の部活動の一部をNOBYで担うことも可能ですか。

 「それは十分に可能です。実際に多くの中学生、高校生にも指導していますからね」

 ――自民党は20年東京五輪・パラリンピックを見据えた国民のスポーツ振興策として、スポーツ指導者の国家資格制度創設を検討しているようです。この資格を取得したクラブのコーチが学校の部活動中心だったスポーツの指導を担っていくことになるかもしれません。

 「その動きには期待したいですね。ただ、資格を創設するだけではなくて、そこに市場もつくらないといけません。資格を取った人がきちんと食べていける市場ができていれば、資格を取得する人も増えると思いますが、市場ができていなければ、あまり資格は普及しないと思います。そのためにも地域のスポーツクラブを活性化し、新しい資格を取得した人の受け皿となる地域のスポーツインフラを充実させるべきだと思います」

 ――クラブを充実させていくためには、クラブを運営するマネジャーも育成する必要がありますね。

 「マネジャーについても、それを職業として食べていけるようにすべきです。他の仕事をしている片手間にクラブの運営をしているのならば、クラブを発展させることは難しいでしょうね。しっかり食べていけるだけの職業としてマネジャーをする人材がいれば、日本でもクラブが発展する可能性は十分にあると思います」

地域密着型のスポーツ振興などについて聞く藤田氏

 ――ドイツのように、しっかりとスポーツが地域に根付けば、地域として応援したい選手もたくさん出てくると思います。選手の応援に行くための旅費、飲食代、応援グッズの購入費といった様々な消費が生まれます。「応援したい」という気持ちを生むためのコミュニティーづくりが求められますね。

 「そういったコミュニティーに根付いた市場ができれば、スポーツ関連の消費も一段と拡大していくと思います。選手の育成からセカンドキャリアの創出まで幅広く好影響が期待できます。アスリートにとっては競技に専念できる環境が整うことにつながるでしょう。そういったスポーツ文化をつくっていきたいですね」

 ――次回は「post2020」時代に朝原さんのセカンドキャリアがどう展開されるのかについて聞かせてください。

朝原宣治(あさはら・のぶはる)さん
 1972年生まれ。高校時代に陸上競技を始め、同志社大を経て大阪ガス入社。96年アトランタ五輪など五輪、世界選手権の男子100メートルで5度準決勝進出。北京五輪男子 400メートルリレーで銅メダル獲得。2008年に引退。10年にバレーボール全日本女子監督だった柳本晶一氏とアスリートのキャリア形成を支援する団体「アスリートネットワーク」を設立、副理事長に就任。陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を主宰し、小学生から中高生、そして高齢者まで幅広く指導を行う。

藤田耕司(ふじた・こうじ)
 1978年生まれ。公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学を体系化し、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

 前回掲載「『やり切った!』北京五輪 朝原氏、引退後も支えに」では、「どん底」状態から復活して北京五輪でメダルを取り、引退を決断するまでの軌跡を聞きました。

「post2020~次世代の挑戦者たち」は原則水曜日に掲載します。

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