節税効果大だが落とし穴も 小規模宅地等の特例 – 日本経済新聞

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佐藤絵里子さん(相続手続支援センター横浜駅前・川崎駅前 税理士)

 相続した自宅土地の評価額が80%減額されるという絶大な節税効果を持つのが「小規模宅地等の特例」だ。

 制度の詳細は下図の通りだが、例えば1億円の土地なら相続税評価額が2000万円になる。「相続予定の自宅の土地があるなら、特例の適用条件を調べておき、生活に支障がない限り、特例が使える状態を整えて維持しておきたい」と税理士の佐藤絵里子さんは話す。

 ただし、節税効果が大きい特例だけに、適用要件も細かく難解だ。専門家でも勘違いすることがあり、失敗事例も多い。親や子の暮らし方など様々なことが関係し、ちょっとしたことで特例が使えなくなる。特にこれから不動産を購入する人は、特例の適用に影響はないか、相続案件の取り扱い実績が多い複数の税理士に相談しておいた方が無難だろう。

■中途半端な対策で後悔

 具体的な失敗例を見ていこう。下のCASE1は、中途半端な節税対策で80%減の特例をフル活用できなかった例だ。A子さんが使った2500万円までの贈与が非課税になる相続時精算課税は、課税を先送りしているにすぎない。贈与税は非課税になるが、相続時には相続財産として勘定される。さらに贈与を受けた2500万円相当分は80%評価減の適用対象外。住宅メーカーの営業マンが勧める部分的な節税対策に惑わされ、必要なかった相続税を納める羽目になった。

CASE1:節税のつもりの贈与が無意味、80%減も対象外で裏目に

 「住宅メーカーの話だけに頼らず、自分でしっかり確認すべきだった」。母の相続を終えたA子さんは、自分の選択ミスにため息をつく。

 今から10年ほど前、A子さんは父の他界を機に夫婦で母と同居することにした。母が父から相続した資金で土地を求め、二世帯住宅を建てたのだが、その際、住宅メーカーの営業マンに「節税になりますよ」と「相続時精算課税制度」の適用を提案された。親からの2500万円までの一括贈与が贈与税非課税になるという制度だ。

 A子さんは提案通り、母が購入した土地・建物のうち、土地2500万円相当分を贈与されたとしてA子さん名義とした。残りは母名義だ。

 うまい節税ができたと満足していたA子さんだが、その後母が亡くなり、相続という段になり「想定外」の事態に遭遇する。相続時精算課税を適用した贈与分2500万円は相続財産として合算されるうえ、この分は小規模宅地の80%の評価減は適用されないのだ。

 80%評価減をフル活用できれば相続税はゼロだったのだが、A子さん名義の2500万円分が課税対象になったことで相続税が発生。節税のつもりで取った行動がアダとなり、A子さんは相続税を納めることになってしまった。

(イラスト:若泉さな絵)

 営業マンの話をうのみにした失敗では、施設で生活する親所有の古い実家を壊し、子供がローンを組み賃貸物件を建ててしまった話もある(子供は親と別居で別生計)。

 賃貸物件の土地でも要件を満たせば50%減の対象で、営業マンの話では「小規模宅地等の特例は使えます」とのこと。だが、そこで賃貸経営するのは親でなく別生計の子と見なされ、特例は使えない。

■別居でも使えるケースも

 特例を使うには「親と同居」が必要だと思い込んだ末の失敗例も多い。CASE2は特例を初めから諦めてしまった例。事例のB助さんは適用要件を把握しないまま自分の家を買ってしまったが、親が自宅で一人暮らしで、かつ相続する子供が賃貸住宅で暮らしているなら特例を受けられる。

CASE2:マイホームを買わなければ、相続税を払わずに済んだのに……

 B助さんの父は東京都内の戸建てで一人暮らし。B助さんは相続時に自宅土地の評価を下げる特例があることは知っていたが、「同居」が必須条件だと勝手に思い込んでいた。税制上有利だとは知りつつも、同居は何となく気が重く、対策は先送りにしていた。そんな折、B助さんは魅力的な中古物件に出合う。賃貸暮らしのB助さん夫婦はそちらに飛び付いてしまった。

 数年後、父は大病を患い死亡。自宅を相続したB助さんには予想通り相続税の支払い義務が生じた。申告手続きを頼んだ税理士は「賃貸暮らしを続けていれば、自宅土地80%の評価減が使え、相続税の払いは不要だった」という。B助さんは「もっとよく考えて行動すべきだった」と後悔している。

 相続発生時に親が施設で暮らしていた場合も条件次第で特例が認められる。「自分は対象外だと一人で判断せず、まず専門家に聞いてみることが大事」(佐藤さん)だ。

 せっかく条件を満たしたのに、相続税の申告をして安心し、早々に自宅を売ってしまうというCASE3のような失敗例も少なくない。特例を適用して評価減を受けた自宅用の土地は、相続税の申告期限(相続発生の10カ月後)まで所有するという適用要件がある。

CASE3:家を売るのが早過ぎて、評価減は取り消しになってしまった

 相続時に自宅土地が80%減になる特例の条件をクリアし、相続税の支払いはゼロになって安心しきったC太郎さん。面倒な申告手続きも早々に終え、親の死も乗り越えて前向きに自身の人生を歩もうと、相続した古い実家を土地とも売り払った。

 売却で得た現金をローン返済に充てようと考える矢先、税務署から連絡が入る。「80%減適用には相続税の申告期限(相続発生10カ月後)までその土地を所有する要件があるため、80%減は却下、申告をやり直すように」というのだ。C太郎さんは茫然自失。

松木昭和さん(ジーマック松木事務所 税理士)

 二世帯住宅にまつわる間違いも多い。二世帯住宅の土地の特例適用要件は2年前に一部緩和されており、「親と子の居住部分を区分所有で登記している場合でも、敷地全体について特例が使えると勘違いする人もいる」(税理士の松木昭和さん)。適用範囲は条件により異なるが、区分所有しており親と別生計の子が引き継いだ場合、敷地全体にわたり特例は使えない。

 また、親の自宅に住民票だけ移して実際は別居という場合も適用は否認されるし、反対に住民票移し忘れのミスも多い。同居条件は名実共に整えておくことが重要だ。

(ライター 福島由恵)

[日経マネー2016年11月号の記事を再構成]

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