レシートから消えるレジ担当者名 ネット上の特定懸念 – 日本経済新聞

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すかいらーくグループは個人情報保護の観点からレシートに担当者名を載せない(東京都武蔵野市のバーミヤン)

 スーパーなどの店頭で受け取るレシートで、レジ担当の従業員の名前が消えつつある。インターネット上で、名前を基に詳細な個人情報が不特定多数に公開されるケースがあるからだ。一方、客が問い合わせするためには従業員の名前が必要という声も根強い。従業員のプライバシー保護と消費者サービスのバランスをどうとればいいのか。

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 「名前を覚えたからな。のんきに外を歩けると思うなよ」。2年前の学生時代、東京郊外の焼肉店でアルバイトをしていたAさんは客の一言に背筋が凍った。私生活に支障をきたすのではないかと不安がよぎり、実名で利用していた交流サイト(SNS)の2つのアカウントは、急いで架空の名前に変更した。

 「アイスが小さかった。土下座しろ」。むちゃな言いがかりに周囲がおびえる中、店長がおらずバイトリーダーのAさんが矢面に立たされた。土下座は免れたものの、氏名が記載された名札を見られて冒頭のように脅された。アカウントを実名に近い名前に戻すまで約3カ月かかった。

■写真や動画が…

 「写真や動画が知らない間にSNSに投稿され、拡散されていると思うと怖い」。都内のカフェでアルバイトをする女子大生のBさん(20)は不安を口にする。内装を凝ったカフェなので店内を撮影する客が多く、同時に店員の顔も写ることもある。「私たちスタッフのプライバシーはあまり守られていない」

 飲食業やスーパー、コンビニなど小売業の店頭で働く人にこうした不安が広がっている。全国webカウンセリング協議会(東京・港)の安川雅史理事長は「一部の個人情報だけでもネット上の他の情報との組み合わせでどこの誰かを特定できる」と指摘する。店舗内に掲示された店員の自己紹介からストーカーに発展した相談事例もあった。SNSが特定されて居住地域や勤務日などを調べられてしまったという。

 レシートに記載された名前が悪用される例もある。客から氏名を基にSNSのアカウントを検索されて閲覧されるようになった結果、様々な書き込みをされて嫌な思いをした相談もあった。やむなくアカウントを閉鎖し、勤務するシフトを変えざるを得なかった。

 個人情報保護の観点から、担当者の氏名を記載したレシートを変更しようという動きも出始めた。セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂は昨年11月からレシートの担当者名をカタカナの名字のみに変更した。従前のシステムでは従業員の登録情報がレジ機にひもづけられ、レシートに自動的に漢字の氏名が記載されていた。

 イオンの中核会社、イオンリテールは4月以降のシステム変更に伴い、レシートの担当者名を名字か社内番号のみに変更しようと検討している。東急ハンズも今後、従業員番号のみの記載に変更する方針だ。コンビニ大手でも名前を従業員番号のみで対応する会社が多く、全国約3000店を展開するすかいらーくグループも当初から名前を載せないようにしている。

■接客で使い分け

 一方、同じ小売業でも、百貨店など業態によっては、従業員の名前を客に提示する必要性を指摘する。「専門知識をもった店員への問い合わせが多く、信頼関係を築くには必要」(高島屋)など、客からの信頼に応えることを理由に挙げる。大手流通などでも「金銭を扱うレジの責任者として自覚をもってほしい」「問い合わせにスムーズに対応する目的」などを名前明記の理由に挙げる。

 個人情報に詳しい清水勉弁護士は「客との距離感や専門性など、通常業務でフルネームを知らせる必要性があるかを考えるべきだ」と強調する。高額な商品を扱う百貨店ならば、担当者名が分かる方が客も安心し購買に結びつきやすい。一方で特に専門性をもたない接客業務ならば時刻やレジの番号さえ分かれば内部で担当者を特定でき、客側に知らせる必要もない。

 労働契約法の安全配慮義務によって、労働者が安全を確保して働くために使用者側には具体的な状況に応じた必要な配慮が求められている。社会保険労務士の奥山恵一さんは「ストーカーとクレーマーから従業員をどう守れるか。ネット時代になり、個人情報に関して配慮すべき範囲は広がっている」と話す。

 「私人」の側面の強いアルバイトの学生らを守るのも雇用側の責任であり、経営陣も会社法などに基づき責任を問われる可能性がある。日本ネットワークセキュリティ協会(東京・港)の調査研究部会長の前田典彦氏は「リスクを知らなかったというのは通用しなくなってきている」と語る。

 ただ、個人も、職場や学校など行動範囲を特定されかねない投稿は避けるなど、自衛策を怠らないことも大前提。SNSに投稿する前に落ち着いてリスクを精査してみる必要がある。

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■SNSの公開範囲に注意を

 ネット上の公開や投稿への考えについて、昨年に情報処理推進機構(IPA、東京・文京)が5000人に調査したところ、「登録する情報は他人に知られても問題がない情報」と回答したのは27.8%にとどまった。13年の調査開始以来、減少傾向にある。

 安川さんは「SNSではプライバシーに関わることは一般公開せず、友達限定にするなど慎重を期すべきだ」と念を押す。「少し特徴のある建物の写真から自宅が特定されることもある」(前田さん)。投稿時には念入りな注意が必要だ。

(小柳優太)

[日本経済新聞夕刊2017年3月27日付]

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