アスリートは2度輝く 引退を見据えて「市場」耕せ – 日本経済新聞

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アスリートネットワーク副理事長の朝原宣治氏

 2020年東京五輪・パラリンピックで活躍が期待される現役トップアスリートにも、いずれ引退の日は訪れる。東京大会後の「post2020」時代に、第一線を退いた選手のセカンドキャリア形成には何が必要になるのか。北京五輪男子400メートルリレー銅メダリストで、アスリートネットワーク副理事長としてアスリートのセカンドキャリア開発を支援している朝原宣治氏にトップアスリートが引退後に再び輝くための条件などを聞いた。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)

 ――アスリートネットワークは現役を退いたスポーツ選手のために、どんな活動をしているのですか。

 「アスリートネットワークは10年に設立された一般社団法人です。当初は地方自治体などから依頼を受け、スポーツイベントにアスリートが参加するといった活動がメインでしたが、今はこちらからスポーツを起点にしたイベントやコンテンツを発信することを重視して活動しています。例えば、3月25日には、08年北京、12年ロンドン両五輪に新体操で出場した田中琴乃さんが大阪ガスの『アスリート食・DO』というイベントで、美容と健康をテーマにしたセミナーと料理教室を開きます。このようにアスリートネットワークの活動は食、美容、健康といったコンテンツを大切にしています」

 ――アスリートが現役時代に培った専門的な知識やスキルをスポーツ以外の分野で活用する切り口は興味深いですね。活躍の場を広げられる可能性もあります。

 「アスリートのセカンドキャリアを考える上では、アスリートが活躍できる『市場』が存在するか、その市場の規模が大きいか、小さいかをしっかり見極めることが重要になります。市場の状況は種目によって異なります。市場が小さい種目の場合、あまりセカンドキャリアの選択肢はないため、その種目とは関係のないセカンドキャリアを歩まざるを得ないことも多々あります。一方、野球やサッカーは市場が大きいので、球団に所属してコーチや監督をしたり、解説者になったり、スポーツクラブで教えたりする様々なセカンドキャリアが考えられます。ただ、野球やサッカーであっても、現役を退いた後に、その道で食べていくことは決して簡単なことではありません」

 ――陸上競技はどうでしょうか。

子供とふれあい、スポーツの魅力を伝える(写真提供:アスリートネットワーク)

 「陸上競技は市場が大きくはないので、プロで食べていくという発想はあまりないですね。大学を卒業したら企業に就職したり、教員を目指したりする人が多いです。ただ、日本代表になれると思ったら大学院に行ったり、企業に入ったりして選手として競技を続けることができます」

 ――同じ陸上でも種目によって状況は異なるのでしょうか。

 「短距離種目か長距離種目かによってキャリアは大きく変わります。日本の場合、駅伝の市場は大きく、駅伝チームを抱えている企業もたくさんあるので、長距離選手の就職枠は一定数存在します。企業は選手が中学生の時代から目を付け、有望な選手の取り合いをしているくらいです。箱根駅伝に出場できるぐらいの実力がある選手ならば、ある程度、企業に就職できます。一方、短距離種目は世界で通用するレベルじゃないと、なかなか企業から相手をしてもらえないですね」

 ――ご自身は大阪ガスに所属して世界を舞台に活躍し、引退後、アスリートネットワークなどに活動の幅を広げていますね。

 「今は大阪ガスの近畿圏部という部署に所属し、兵庫県西宮市を拠点にして陸上クラブ『NOBY T&F CLUB』を主宰しています。このクラブには小学生から一般の成人の方まで集まっています。ここで走り方やトレーニング法を指導しています。トレーニング計画の立案や健康な生活を送るためのアドバイスもします」

 ――陸上競技での経験を生かし、しっかりとセカンドキャリアを築いている人では、誰に注目していますか。

朝原氏は関西ワールドマスターズゲームズ2021が「スポーツツーリズム」による旅行需要を拡大させると期待する

 「例えば、ハードルの為末大さんは講演や執筆活動をしたり、陸上に関する様々なイベントを開催したりしています。コメンテーターとしてテレビにも出演していますね」

 ――やはりセカンドキャリアの形成では、現役時代に十分な実績を残し、知名度を得ておくことは重要なのでしょうね。

 「確かに、それは重要だと思います。一方、選手としての知名度は低くても、セカンドキャリアで指導者としての専門性を高め、スポーツ用品メーカーと契約したり、プロ選手に走り方を指導したりして活躍している人もいます。指導者としてのセカンドキャリアを歩む上では、選手としての実績や知名度も大事ですが、それ以上に、その種目について専門的な知識と十分な経験を持っているかどうかという点が重視されるべきでしょう」

 ――現役時代に輝いていたトップアスリートがセカンドキャリアでも、専門知識や経験を生かして再び輝くためには、市場の創出が必要です。そのためにはスポーツに親しむ人を増やしてスポーツの裾野を広げないといけませんね。

 「その意味でも20年の東京五輪・パラリンピックは一つのきっかけとして期待しています。世界が注目するイベントですから、スポーツに関心がなかった人にもスポーツに興味を抱いてもらう効果はあるでしょう。そして、スポーツを『見る側』から『する側』に変わってもらえればいいですね」

東京五輪・パラリンピックへの期待などについて聞く藤田氏

 ――21年には生涯スポーツの国際大会「関西ワールドマスターズゲームズ2021」が開催されます。この大会はアスリートのみならず、30歳以上の一般の人も選手として参加する大会ですから、スポーツの裾野を広げるための大きなきっかけになりそうです。

 「そうです。ワールドマスターズゲームズは『スポーツツーリズム』による旅行需要の拡大といった経済効果も期待できます。地域を活性化させる起爆剤にしたいと思って私も積極的に関わっています。スポーツの裾野を広げて市場を大きくし、アスリートがより充実したセカンドキャリアを歩めるインフラが整えば、現役の選手も安心して競技に集中できるのではないかと思います」

 ――そうなれば、選手のパフォーマンスはさらに高まるでしょうね。次回は朝原さんのアテネ五輪、北京五輪での裏話、そして現役引退の経緯などについて聞きたいと思います。

 ▼アスリートネットワーク 2010年に約30人のアスリートが集まって発足した一般社団法人。バレーボール全日本女子チーム監督だった柳本晶一氏が理事長を務める。現役アスリートの支援のほか、引退後に新しいキャリアを形成できる環境を整備する活動も展開する。競技種目の垣根を越えてトップアスリートが集まり、スポーツ教室などを開催しながらスポーツの魅力を子供に伝えている。

 朝原宣治(あさはら・のぶはる)さん 1972年生まれ。高校時代に陸上競技を始め、同志社大を経て大阪ガス入社。96年アトランタ五輪など五輪、世界選手権の男子100メートルで5度準決勝進出。北京五輪男子 400メートルリレーで銅メダル獲得。2008年に引退。10年にバレーボール全日本女子監督だった柳本晶一氏らとアスリートのキャリア形成を支援する団体「アスリートネットワーク」を設立、副理事長に就任。陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を主宰し、小学生から中高生、そして高齢者まで幅広く指導を行う。

 藤田耕司(ふじた・こうじ) 1978年生まれ。公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学を体系化し、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

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