スタンフォード一番人気の授業 会計学が魅力的なワケ – 日本経済新聞

Home » 公認会計士 » スタンフォード一番人気の授業 会計学が魅力的なワケ – 日本経済新聞
公認会計士 コメントはまだありません
スタンフォード大学経営大学院 エリザベス・ブランケスプール助教授 (C)Doug Peck

 世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回から会計学のエリザベス・ブランケスプール助教授が登場する。

◇   ◇

 「入学前、最も不安だった科目は会計だった。それが今は最も出席するのが楽しみな授業となった」「彼女はスタンフォードでナンバーワンの教授だ。自分でも会計を理解できるのだ、という希望を与えてくれた」。スタンフォードの学生から今、最も絶賛されているのがブランケスプール助教授だ。人気の秘訣は何なのか。ご自身に解説してもらった。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

エネルギッシュに議論する授業

佐藤:ブランケスプール助教授は、2016年6月、スタンフォード大学経営大学院の学生が選ぶ最優秀教授賞を受賞しました。会計学の先生が受賞するのは快挙ですね。一般的に会計の授業は「必要不可欠だけれど退屈」というのが定石で、学生の間でもあまり人気がありません。ブランケスプール助教授は、会計の面白さをどのように伝えていますか。

ブランケスプール:ディスカッション形式を採用し、とにかくエネルギッシュに議論を進行するように、心がけています。学生は私の講義をただ聴講するのではなく、自ら積極的に議論に参加することによって、会計を学んでいきます。多彩な学生が集まっているので、毎回、面白い意見がたくさん出てきますね。

佐藤:会計の授業といえば、分厚い教科書がつきものです。なぜブランケスプール助教授の授業では教科書を使用しないのでしょうか。

ブランケスプール:その理由は2つあります。1つめは、教科書に書かれていない最新の事例や会計基準を取り上げていること。特に2016年は、数多くの新基準が発表されましたから、それらをテーマに議論することが多かったのです。

 2つめは、膨大で難解な会計基準を読み込むことにあまり時間をつかってほしくないこと。会計基準そのものは、会計の専門家が読むことを想定して書かれているので、普通の人にはとても読み難いものです。学生には、会計基準を一生懸命読むよりも、経営者として知っておかなくてはならない知識を得ることに集中してほしいと思います。そのほうが将来、ずっと役立つからです。

佐藤:日本の大学や大学院では、公認会計士試験に合格するために必要な知識やテクニックを教えている授業が多いです。なぜテクニックは教えないのですか。

ブランケスプール:学生は公認会計士になるために私の授業を履修しているわけではないからです。彼らがスタンフォードで学んでいるのは、会社やファンドの経営者になるためであって、会計データを入力する社員になるためではありません。ですから帳簿のつけ方や、特定の複雑な取引について、どの会計規則をあてはめるか、などについて細かく知る必要はないのです。経営者はもっと大きな視点から会計情報を生かさなくてはなりませんから。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

すべての数字は懐疑的に見よ

佐藤:ブランケスプールが教えている選択科目「国際財務報告」というのは、どんなことを学ぶ授業ですか。

ブランケスプール:これは、スタンフォード入学前に会計に携わったことのある人向けの上級会計コースです。会計にまつわる様々なケースについて、より俯瞰(ふかん)的で、より専門的な視点から議論することを目的としています。

 投資家にどのような情報を伝える必要があるか。自分や他の意思決定者にとって有益な会計情報にするためには、どこをどう改善したらいいだろうか。こうしたテーマについてディスカッションしていきます。

 すべての数字を懐疑的に見ることも学びます。「この数字には不確定要素が多い、この数字はもっと幅で考えないといけない。では予測値はどれくらいの幅で考えるべきだろうか」というように、数字を所与のものとしてとらえないことが大切です。

佐藤:会計学をわかりやすく、身近に感じてもらうために、工夫していることはありますか。

ブランケスプール:たとえ話で説明することはありますね。

佐藤:何か説明してもらってもよろしいでしょうか。

ブランケスプール:「資産証券化」について教えるときは、次のようなたとえ話をしますね。

 資産証券化とは、企業が特定の資産を証券化して、それを投資家に販売することによって、資金を調達する方法です。なぜこういう資金調達方法が生まれたのかということを説明するために、この話をしています。

 私には息子と娘がいます。3歳の息子は、レーズン入りシリアルの中のレーズンが大好きなのです。普通のレーズンではダメなのです。「シリアルの中に入っているレーズン」が食べたいというのです。だから私はいつもシリアルからレーズンを一つ一つ取り出す係をやるはめになります。

 このように、世の中には「全部はいらないけれど、その中に入っている一部が欲しい」と思う人はたくさんいます。息子のように、シリアルはいらないけれど、シリアルの中に入っているレーズンだけ欲しいという人はいるのです。それは投資家についても同じことです。

 たとえば、会社の資産をシリアルとレーズンに分けてそれぞれ売り出したらどうでしょうか。セットで売るよりも高値で売れるかもしれません。なぜなら、シリアルだけ欲しい人、レーズンだけ欲しい人が必ずいるからです。娘はシリアルだけ欲しい、息子はレーズンだけ欲しいというのと同じです。両者のニーズにこたえれば、シリアルとレーズンを分けることによって、それぞれ別々の価値を生み出すことができます。

佐藤:なるほど。レーズン入りシリアルのレーズンだけ食べたい人がいる、というのはとてもわかりやすい話ですね。この会社そのものに投資するにはリスクは高いけれど、この会社のこの金融資産になら投資したいという投資家はいる、ということですね。ブランケスプール教授の授業が人気を集めている理由は、難しいことを一般の人にもわかるように解説してくれるところなのですね。

会計は人間的なコミュニケーションツール

ブランケスプール助教授の授業は活発な議論が魅力だ (C)Ivan Lvov

佐藤:なぜ経営者や管理職をめざす人は、会計を学ぶべきなのでしょうか。

ブランケスプール:会計は、ビジネスのすべての分野に関わってくるからです。あなたが社員であっても、あるいは、社外のアドバイザーであっても、会計の知識は不可欠です。なぜなら、それがなければお金の流れがわからず、会社にインパクトを与えられないからです。

 会計は、数字、会計基準、ロジックがすべてだというのは簡単です。データをとりだして、それをエクセルにインプットして、その結果から情報を読み解く。それが会計だろうと。しかし、数字を使って機械的に情報を得ることだけが会計の目的ではありません。会計上のあらゆる数字は、人間の行動や決断の結果なのです。そこまで読み取るのが、会計学なのです。

 私が授業でいつも言っているのは、「会計はコミュニケーションツールだ」ということ。財務情報をやりとりするのに、これほど有意義な手段はありません。数字は膨大な情報を象徴的にまとめて伝えてくれます。そこで忘れてはならないのは、その背景にいる人間の存在です。会計とは極めて人間的なものなのです。

佐藤:会計が人間的な学問だというのは、初めて知りました。

ブランケスプール:会計の基準設定主体は、意思決定者にとって役立つ情報を与えるにはどのような基準がベストかと考え、意思決定者は、この目的のためにはこの会計情報をどう生かしたらよいかと考え、株主は株主の視点から会計情報を読み取ります。人間がルールをつくって、人間がそれぞれの立場から、利用するためのものなのです。

エリザベス・ブランケスプール Elizabeth Blankespoor
 スタンフォード大学経営大学院助教授。専門は会計学。財務報告と企業情報開示をテーマに幅広く研究。MBAプログラムでは選択科目「国際財務報告」を教えている。「BPと偶発負債」「フェデックスと年金会計」などの教材も執筆。2016年6月、学生が選ぶ最優秀教授賞を受賞した。

本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。

LEAVE A COMMENT